前から(慢性の)腹痛に悩まされていませんか?(原因は腹壁にあるかもしれません!)ACNESって何?[2022/06/18 更新]

さてこのブログでは
ぼちぼちと、「よくある疾患シリーズ」「よくある症状シリーズ」続けております。
今日は少し、それには当てはまらないかもしれませんが
「あまりメジャーじゃないけど意外によくある腹痛」というものを少し紹介します。

 

 

 

あんな 敬礼イラスト

年単位、月単位で、ずっと続いている

なのに、検査しても特に何もなく「気のせいですよ!」なんて言われるお腹の痛み。。。。

そんな慢性的な腹痛にお悩みの方、おられませんか?
そのお腹の痛み、原因は腹壁、詳しくいうと、腹筋(腹直筋)を貫いている神経が原因かもしれません。

その名も、ACNES(前皮神経絞扼症候群)anterior  cutaneous  nerve entrapment syndrome :ACNES)です!!

「アクネス」と呼びます。
アクネスと聞くと
ニキビ??と思いたくなりますが、、
ニキビは全く関係ございません!

 

ACNES(前皮神経絞扼症候群)とは

anterior  cutaneous  nerve entrapment syndrome :(ACNES)

「お腹が痛い!」という時に

実はお腹の中には原因がなく

お腹を覆っている壁、腹壁に原因がある場合があります。
今日はその腹壁に原因がある、前皮神経絞扼症候群(ACNES)についてお話しします。

 

前皮神経絞扼症候群(ACNES)は、頻度が結構高いにもかかわらず
今までそんなに医学界でも注目されてきませんでした。
私も医学生の時には、習わなかったように記憶してます。
ところが最近、特に総合診療部の先生達の中で
「知っておかなくてはいけない疾患」として注目を集めております。


ただ、まだまだマイナーな部類の疾患なので
患者さんの方が困り果てて、色々調べて、「ACNESでしょうか?」と病院で聞いても
「なんですか?それは。」と言われてしまうかもしれません。


お腹の中には異常がないため、CTを撮ったり、採血しても何も異常はありません。
もちろん胃カメラをしても全く異常はありません。
なので「何も異常ありません!」とか、「気持ちの問題ですよ。精神科受診されたらどうですか?」
と言われてしまうことも。

命に別条はないのですが
患者さんとしては、生活の質(QOLと言います。)が落ちてしまってつらく
「分かってもらえない、本当にこんなに痛いのに。」と落ち込んでしまう方も多いです。

 

背骨(胸椎)の肋間神経から分岐した前皮神経は
腹直筋の外縁のあたりで筋肉を貫いて皮膚に到達し、皮膚表面の感覚に関係してます。
下の図は、お腹の輪切りの断面です。(下が背中側です。)
緑のラインが神経でACBが前皮神経です。

R.C. Maatman et al. / Scandinavian Journal of Pain 17 (2017) 211–217

なんらかの原因で
この前皮神経が腹直筋を貫いているところを圧迫すると腹痛が出ます。

(J Am Board Fam Med 2013;26:738–744.)

この❌印の点を
ピンポイントに押さえると
痛みが出ます。

どんな痛み?

皮膚の表面の感覚の違和感を訴える方が多いです。

文献的には


「服が擦れている感覚がきになる」
「眠る時に、そこに何か当たると違和感があり眠れない」
「服が擦れるのが気になってゆったりした服しか着れない」

というような訴えが多いように記載がありますが。。。。。

私のクリニックにくる方は
実際には
経過が長かったり
複数箇所ある方もいて

「どこが痛いのか、よくわからない。」
「表面?中?うーん」
「味わったことない。でも激痛」
「移動した気もする」
とさまざまな訴えをされることがあります。

 

でも基本的には、上記の図のラインで押さえると痛がります。

診断は?

診断は身体診察になります。

ACNES 身体診察

(J Am Board Fam Med 2013;26:738–744.)

ポイントは
この左の写真のように
痛い場所がピンポイントです。(痛いところ一箇所一箇所の面積は<2cm2程度)

また、非常に特徴的なのは、
この右の写真のように
疼痛部位を圧迫しながら腹筋に力を入れてもらうと疼痛が悪化します。(カーネット兆候と言います)
これは非常に有用な所見で8−10割で陽性になります。

 
このほかにも
・圧痛点周囲の触覚(触られているところ)温痛覚(温度の感覚や痛み刺激を感じるかどうか)の低下
・圧痛点周囲の皮膚をつまむと痛みが倍増する
 
こういった所見も参考になります。

治療

治療の第一選択は麻酔薬の局所注射です。
麻酔薬を注射すると驚くほど疼痛が消失しびっくりされることで診断が確定します。
一回目の局所注射で反応するのは86%と言われています。
そのうち24%がその一回で治癒してしまいます。(寛解と言います。)
注射を繰り返して痛みが無くなる方もいますが
あまり改善の場合は手術も考慮されます。(ご紹介になります。)

 

さて、今日は、お腹の痛みは中の問題だけではない!!

というお話でした。
もし長年腹痛に悩まされ症状が当てはまるような方おられましたら
一度ご相談くださいませ。

このブログをご覧になって、自分もACNESかもしれない。という方がたくさん受診やお問い合わせくださっております。
本当に、意外に多くおられることに、私自身も驚いております。
どうか、慢性の腹痛で長年苦しんでこられた方の中で
ACNESの方がおられましたらしっかり診断がついて
痛みから一刻も早く解放されることをせつに願っております。

あん奈